毎月頑張るぞ-、と思いつつすっかり季刊ものぐらい間があいてしまいスミマセン!これはイカンということで この原稿は「映画 犬夜叉」の制作スタジオで書いているのですが、だったらその制作の様子をリアルタイムでコラムに書こうと思います。題して、「映画 犬夜叉」音楽制作奮闘記―

映画というのは、アニメであれ実写 であれ、まずは企画-プロット-脚本の順で、ストーリー関係の制作が最初の作業になります。ある意味、作品の魂にあたる部分なので、一番頭と時間をかけるところですね。僕ら音楽家は、この出来あがった、もしくは準備項といわれる脚本を読んで、まずはイメージプランを作っていきます。その後、数ヶ月たって絵コンテという絵と台詞などを書いたアニメの設計図のようなものが上がってきて、それをもとに音楽打ち合わせをします。

ここからが、本格的な音楽家の仕事になるわけです。どのシーンにどんな音楽をつけるか、またはどんなスタイルで行くかは、監督や作品によって様々ですが、僕の場合は、まず自分で音楽ラインを作って打ち合わせにのぞみます。

今回の劇場版「犬夜叉」 も勿論その方法をとったのですが、総カット数1556、90分強の作品のラインはかなりの量 があります。監督の用意してこられた音楽プランも参考にしつつ、一つ一つのシーンを検討し、合計50曲の音楽を書くことになりました。

50曲!! アニメの場合、音楽で状況や感情を表現することが多いので、どうしても実写 よりは曲数が多くなるのですが、それにしても多い… しかも、2,3分を越える長尺が多い…

テレビの場合、動きの少なさをカバーするために、比較的音楽を多く付ける傾向にあるのですが、映画でこれだけ多いのは特別 ですね。それだけ音楽に重責と監督の期待あるのだと、良い方向へ解釈(?!)して作曲をはじめました。幸い、テレビシリーズの映画化なので、ある程度のモチーフはあるのですが、オリジナルストーリーに拠ったメインテーマや瑪瑙丸のテーマ等、新たなモチーフを数曲作曲して準備を進めていました。

しかし、アフレコ用の完尺ビデオ(各カット尺が決定したビデオ)が僕の手元に届いたのは録音の12日前! もう、ここからは気力と体力の勝負です。単純に割っても一日4曲強書かなければ間に合いません。書いて書いてドンドン写譜屋さんにFAXする日々で、録音3日前は徹夜続きでした。

さて、いよいよ録音当日。43名のオーケストラに篠笛と和太鼓、そして男声合唱という編成が初日の録音です。1曲目は、比較的バランスのとりやすい曲を選んで、テスト録音をしながら各セクションの録音レベルなどを調整します。約30分位の調整が終了したら、いよいよ長丁場の始まりです。オーケストラのメンバーは、もう長年いつも一緒に録音しているメンバーなので、僕の作品のツボを心得てて、初見リハーサルの後1,2回の練習で直ぐに録音というペースでドンドン作業は進んでいきます。最後に男声合唱のダビングを終えたのが夜の10時。10時間におよぶ初日の録音は無事に終了しました。

録音2日目。この日は、中近東の絃楽器ウードとブズーキ、琵琶、津軽三味線にシンセサイザーのダビングです。今回、大陸の大妖怪・瑪瑙丸の音色設定として、ウードと通称“ロシアンバス”と呼ばれる 男声合唱をフューチャーしたのですが、この音色効果は映画を見てのお楽しみです。

そして新たに「半妖 犬夜叉」の曲アレンジに和太鼓と津軽三味線を加えたのですが、その津軽三味線は僕自身の演奏なんです。この和太鼓と津軽三味線というコンビの音響は、血湧き肉踊るものがあるのですが、まさにこの曲にピッタリの楽器で、僕も楽しく演奏できました。

余談ですが、今津軽三味線とオーケストラの純音楽作品を作曲しているのですが、この組み合わせは魂が燃えるものがあるんですよ。今回の録音でも、津軽三味線のオーケストラの中での効果が良く表れ たと思います。

3日目4日目は、トラックダウンと言う作業です。今回は、ドルビーデジタル5.1chサラウンドシステムでの上映なので、その設定のもと1曲1曲丁寧に仕上げていきます。実は、この原稿はその作業中に書いているのですが、作業を始めて24時間目に突入。ホント、気力と体力のいる仕事です。 この作業が終了すると、あとは2日後にサウンドトラックのためのマスタリングという作業(CD化するための作業)、映像に音楽をはめていく音楽ダビング、そして最後に台詞・音楽・効果音のバランスをと るファイナルミックスと言う作業があります。

映画作りと言うのは、本当に長い時間と多くの人々の協力・努力が必要です。それもみな、「良い作品を作りたい」というひとつの目標のために頑張っています。そして、映画を観に来てくれたお客さんの感動の笑顔を見るために…

〔編集後記〕
第四回目のコラム「映画 犬夜叉音楽制作奮闘記」_いかがでしたか?今回の音楽制作に携わる先生の情熱がビシビシ伝わってきますよね!本当にサントラ・映画が待ちきれませんね。そうそう!特番も要チェックですね。ということでコラムに関するご意見・ご感想をお待ちしています。