とうとう、トロンハイムでの雨模様。でも、たまには雨に濡れる古都も良いものです。川沿いに立つホテルのカフェで、停泊しているクルーザーを眺めながら、この日記を書いています。ノルウェーの人達の生活水準って高いんだろうなぁ。前述したように、物価もヨーロッパの中では高い方だし、停泊しているクルーザーも大型のものが多いです。元々バイキングのお国柄だから、船は重要なアイデンティティーなのでしょうが、外国人には羨ましく見えます。家々も、おとぎ話に出てくるような可愛らしい家から、ガラス張りデザインのアパートメントまで、ホント町並みも美しい。今夜のコンサートは、7時30分からなのですが、ゲネプロは朝10時からスタート。こんな早い時間のゲネプロは、他のヨーロッパの国々でも珍しいです。イタリアなんかだと、まず楽員が全員揃わないだろうな。北の人達は、本当にマジメです。時間を有効に使おうとしている。まぁ、ゲネプロが終わってから、本番まで7時間もあるのもナンですけどね。

ゲネプロも、問題なく順調に進行。猿谷さんの新曲は、世界初演ということもあって、打楽器のバチやオケのバランスに十分なチェックを入れていました。僕の曲は、ほとんど通しで問題なく終了。あとは、本番一発の気合かな。この辺が日本的思考かしら?でも、楽員も本番をとても楽しみにしている様子。僕の曲のメロディーを、口笛で吹ながらステージを降りる楽員の姿に何となく愛情を感じました。外は雨でも、心は晴れだ。

さて、ゲネプロが終わって、本番まで7時間・・・。通常日本では(大体の外国でも)、本番直前にゲネプロをやるので、ちょっと変な間を感じてしまいます。これも、お国柄なのかな。一旦ホテルに戻って、コンサートまでくつろぐことにしました。こんな時、ホテルとホールが間近だと本当に助かります。

本番30分前に再び会場入り。まだ人はまばらです。コンサート前の雰囲気というのは、国によって様々です。日本では、開場の30分以上前に、既にお客さんは会場前で待っていたり、少なくとも開場時間には多数のお客さんが来ているのが普通ですが、こちらは開演に合わせて来る人が多いようです。数年前アムステルダムで公演した時は、開場と同時に沢山のお客さんが入場して、時間までホールのカフェでオシャベリしていました。

今日のコンサートのお客さんは、中学生くらいからご老人まで、幅広い年齢層でした。ミュンヘンでも若い客層の集客に懸命だったし、今回も「日本週間」で若いお客さんが来てくれている。これは、とても大切なことだと思います。作曲家にしても、演奏家にしても、本番のコンサートというのが一番なのです。そして、それは出来るだけ幅広く多くのお客さんに来てもらいたいものなのです。多分今まで日本人なんて見たこともない、ましてや、日本の音楽なんて聴いたことのない若い人達が、どんな風に今日のコンサートを感じてくれるのか、僕だけでなく、オーケストラにとっても楽しみなことでしょう。

7時30分、コンサート開演。今回は、ミュンヘンの時と違ってトークがないので、純粋にお客さんとして聴くことが出来ます。気が楽です。1曲目の「越天楽」に続き、猿谷さんの「玉の緒」の初演。休憩をはさんで、三木氏の「舞」。そして、トリが僕の「民舞組曲」。2日間のリハと今日のゲネプロを通して、この本番での演奏が一番気合というか、熱のある演奏でした。客席から、オケの演奏と聴いているお客さんの様子を交互に見ていたのですが、次第に体を乗り出くるお客さんの様子に、僕も手応えを感じました。

ジャジャジャン!

終演と共に、大きな拍手で僕はステージ迎えられました。オーケストラのみんなも拍手で迎えてくれました。なにものにも表現しがたい瞬間です。カーテンコールを受け、大勝さんやオーケストラのみんなに挨拶。

公演後、沢山の人達に声を掛けられ、中学生くらいの子供達からもサインを求められました。大人のお客さんも勿論ですが、このようなゲンダイオンガクに何の先入観もない若い人達が、僕の音楽を好きになってくれるのは何より嬉しい。楽屋裏に行っても、オケのチーフマネージャーをはじめ、ノルウェー大使や多くのお客さんや楽員がワイワイやってきてくれました。

ひととおり挨拶をしおえた僕、大勝さん、猿谷さん、宮田さん達と連れだって、打ち上げの夕食会へと向かいます。もう話は尽きず、12時をまわって最後の客になるまで語らいました。ホント、こういう晩は時間を忘れるものです。みんなで、また再会を約束しつつ部屋に戻りました。