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現代音楽からTV・映画の劇伴や舞台・イベントなどの作曲や編曲etc.

Column 2002年「ドイツ&ノルウェー旅日記」

10月1日(火)ノルウェー晴れ

雲ひとつない青空です。ミュンヘンであまりに寒くて買ったジャケットが、ここでも役に立つはずだったのに、街には半袖のお兄ちゃんが歩いている。気温10℃。日本だったら半袖には辛い気温ですが、こちらの人にとっては『温かい』のでしょう。トロンハイムの小春日和といったところでしょうか。 今日は、10時からリハーサル。オーケストラのスタッフが、9時半にホテルへ迎えに来てくれました。でも、なんとオーケストラの事務所とホールは、ホテルの目の前。歩いて10秒の所だったのです。

ホールは、近代的な雰囲気で、音響がとてもイイ。楽員達もみなステージに集合しつつありました。ここでも僕の曲を練習している後姿に感動。  リハーサル10分前に、指揮者の大勝さんが控え室に来て、約20年ぶりの再会を果たしました。大勝秀也さんは、東京音大時代の1年先輩で、僕が副科で指揮をとっていた時の同門でもあります。現在は、ドイツと北欧を中心に活動していて、時折日本にも仕事で帰国しているらしいです。つもる話もそこそこに、リハーサルの時間になったのでステージへと向かいます。

元来、ヨーロッパのオーケストラは、ホールとオケが一体になっているので、日頃の練習も本番と同じステージ上で行います。これがオーケストラにとってどんなに良いことかは言うまでもありません。一都市に多数オケがある場合や、バイエルン放送響みたいな放送局のオーケストラなどは、ホールでの練習というのはゲネプロしか持てません。日本のオーケストラもそうです。やはり、ホールというホームグラウンドでいつも練習ができるというのは、羨ましい限りです。

リハーサルは、10時から14時までを3セッション分け進められました。まずは、近衛秀麿の「越天楽」。原曲は雅楽であるこの作品は、オーケストラでその雰囲気を出すことを試みた最初の作品と言っても良いでしょう。戦前の作品にしては、オーケストレーションの技術が現代にも通じるものがあります。ただ、やはり雅楽を理解したという前提の元で書かれているので、西洋人が譜面どおりに演奏しても、その音楽は十分表現されません。大勝さんは、フレーズや和音、表現法などひとつひとつ丁寧に解説しながらリハーサルを進めていきました。単純な音群の中に、ようやく楽員たちも「音楽」をつかめたようです。

こういうやり取りは、指揮者にとっては大変だろうけれど、とても興味深く見る事ができました。後で、大勝さんとも話したのですが、結局日本のオケで、ドイツ人がベートーヴェンの曲を指揮するのと同じだということです。楽譜は、ただ演奏すれば良いというわけではないのです。そこに「音楽」を注ぎ込む哲学なり、意図が必要なのですね。楽譜をなぞるように弾いただけでは、感動は表れない。そこに生きる人が作り上げていく「なま」ものだからこそ、時代を越え、国境を越え、音楽は演奏され、聴き続けられているのでしょう。「越天楽」を演奏する楽員達の顔が、次第に変わっていくのが「音楽を作っていく過程」として、大変おもしろかった。

さて1セッションの「越天楽」のあと、、「民舞組曲」のリハです。ドイツの時は、指揮者がイタリア人だったので、いろいろと僕自身が説明をしたのですが、今回はその必要はありません。客席で、じっくりとリハの様子を見せてもらいました。第1曲目の「囃子」からスタート。なかなかノリといい、演奏技術といい、イイ感じです。掛け声もサマになっている。オーケストラ全体が楽しんで演奏しているのが、視覚と聴覚の両方から感じ取れます。先ほどの「越天楽」と違い、僕の作品はプロレタリアート=土俗的なので、すぐさま共感できるのでしょうか。大勝さんも、この曲では観念的なことより、演奏の細かなこと、スタッカートや楽器のバランスなどに重点をおきながらリハを進めます。全5曲それぞれに細かなリハーサルをして、丸々2セッションを消化しました。

リハの後、たくさんの楽員が声を掛けてくれます。ミュンヘンでもそうでしたが、こちらのオーケストラの楽員は、とてもストレートに作曲家と付き合ってくれると思います。前にも書きましたが、やはりそこには作曲家へのリスペクトがあるのでしょうか。ノルウェーと言えば、世界的作曲家グリーグを生んだ国です。世界中の人がグリーグの音楽を愛するように、ノルウェー人も彼に愛情と畏敬を捧げています。そういう中で、やはり現代の作曲家に対しても身近に感じるものがあるのでしょう。

充実したリハーサルの後、指揮者室で大勝さんとしばらく昔話に花を咲かせました。なにしろ卒業してから18年です。卒業後、お互いの活動は風の便りやコンサートのパンフなどで知ってはいたけれど、やはり積もる話の内容は、プライベートなこと。そこは、同門の先輩と後輩。遠慮なく話せるわけで、時間の経つのも忘れてしまいました。残念ながら、ここではちょっと書けないけれど、まぁ、ご想像にお任せします。(汗)

リハーサル後、ホテルで待つ母親を連れて街へ出ます。まずは、水やビールの買出し。ホテルの冷蔵庫にもあるのだけど、あんな高いものを5日間も飲むわけにはいきません。冷蔵庫の中身を出して、買ってきたものを入れるのです。これ旅行者の鉄則ですよね。え?ケチくさい?いえいえ、合理的なんですよ。(笑)街に出たのは5時過ぎでした。もう白夜は終わった季節でしたが、まだ日が長いようです。夕暮れがずっと続く感じ。緯度的には日本より随分北なのですが、街の雰囲気は秋の北海道のよう。ロマンチックです。でも、隣りには母親なんだなぁ。ヨメさんにこの景色を見せてあげたかったな・・・。うちの母親は、マイペースです。興味があれば、どんなとこへも行ってしまう。ミュンヘンでも、散々買い物に付き合ったのですが、今日も夕暮れのトロンハイムをグルグルと回ってしまいました。まぁ、街の探索がてらだからイイか・・・。明日は、僕の曲のリハーサルはないので、オフ日です。

うう、どうなることやら・・・。

ホテルに戻って、9時過ぎに遅い夕飯。ここのところの3食生活(日頃は2食)が続いてるせいか、お腹の減り具合がそんなでもない。軽い食事にしようと、レストランで魚介スープを注文したのですが、ドンブリ2杯分ぐらいある量!ひぇ?、こっちの人は体格もいいから、いっぱい食べるんだろうけど、華奢な日本人にはヘビー級です。でも、味は美味しいんですよ。ノルウェーは、サーモンにも代表されるように魚料理が多いので、日本人の舌にも合うようです。でも、こっちの人は、このスープの他にもメイン料理を食べるんだもんなぁ。凄いなぁ。変に感心。

毎日、満腹状態で帰路につく僕達ですが、はたして体重はどうなっているのか・・・それだけが、コワイ。