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現代音楽からTV・映画の劇伴や舞台・イベントなどの作曲や編曲etc.

Column 2002年「ドイツ&ノルウェー旅日記」

9月26日(木)小雨

今日もミュンヘンの天気は不機嫌模様。うーん、僕って晴れ男のはずなんだけどなぁ。ドイツのようなヨーロッパの内陸部や北部は、夏が終わると、このようなドンヨリ天気が続くのです。そして、次第に夜の長い季節となります。サマータイムがあるのもそのため。だからこそ古くから、コンサートやオペラ等、夜長を楽しむ娯楽が発展し、数多くあるのでしょう。

さてさて。朝食をとった後、あまりの寒さに、コートか冬ジャケットを買うために街に出ます。地下鉄に乗って2つ目、マリエン広場というミュンヘンの中心地に到着。ドイツは、地下鉄・市電(トラム)・バス等の切符がすべて共通で、一度切符を切ると制限時間内は乗り放題なのです。これが実に便利。主要な市街地は、たいてい2ユーロのチケットで大丈夫なので、とても経済的。トラムなどはさしずめ、観光電車のような雰囲気。街の古い建物を見ながら目的地へと運ばれます。

さて。マリエン広場についた僕たちは、まずは観光案内所に行って、オフの日のコンサートのチケットを購入。ヨーロッパはなんと言ってもオペラの本家本元。しかも、ここミュンヘンのバイエルン州立歌劇場は、ドイツを代表する歌劇場のひとつです。ちょうどタイミング良く、リヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」の公演がありました。「2001年宇宙の旅」のオープニング曲(実は「ツァラトゥストラはかく語りき」という交響詩)でも有名なリヒャルト・シュトラウスは、19世紀末を代表するドイツの作曲家で、ミュンヘンの歌劇場でもタクトを振っていました。そのシュトラウスの作品を「生」で、しかも本場で観れるなんて!・・・いやいや、何しに来たんだか・・・。

さらにもう一つ、バイエルン放送響と並ぶミュンヘンのオーケストラ、ミュンヘン・フィルハーモニーのコンサートチケットをゲット。しかも、プログラムがロシアを代表する現代作曲家シュニトケのチェロ協奏曲とドボルザークの「新世界」。うわぁ、なんちゅうプログラム!でも、これも大いに楽しみ。チケットをゲットした僕らは、ジャケットを探しに店を転々としました。なにせ、ミュンヘンの後はノルウェー。さらに寒いのです。気合を入れて防寒具を探します。いやー、10件以上はまわったかなぁ。お陰でミュンヘンのファンション事情も見えてきました。日本と同じように、三越のようなデパートからイトーヨーカドーのような大衆派のお店、そして若者向けの専門店など、それぞれのニーズに合ったお店がマリエン広場を中心に並んでいます。専門店などは、どのお店も個性的。思わず他の物を買いたくなる衝動を押さえつつ、本来の目的の防寒ジャケットを探しました。ようやくそれをゲットした頃には、もうコンサート会場へ行かなくてはいけない時刻が迫っていました。今日はいよいよ本番。

ゲネプロ(ステージでの最終リハーサル)の1時間前に、今回の「ヤングピープル・コンサート」の記者会見を見学しました。と言っても、学生による学生新聞の会見です。こちらは学生達のこういった活動が活発で、オーケストラのマネージャーやソリストなどを招いて、学生自身の進行で手際良く進められていました。クラシック音楽の本場と言えるここドイツでも、若者がクラシックを聴く機会は少ないそうです。だから、こういったコンサートを定期的に企画し、よりオーケストラを身近に感じてもらおうという意図のようです。(日本でも音楽鑑賞教室というのがありますが、それとはちょっと雰囲気が違っています。)今回の「オーケストラと打楽器の音楽の叩き合い」のように、毎回テーマを決め、いろんな角度から解説をしてコンサートを進行していきます。「民舞組曲」も日本の打楽器をいくつか使用しますが、伝統的な楽器とオーケストラとの組み合わせも、今回のコンサートの企画に沿ったものらしいです。お陰で、僕も舞台上に上げられて、Fechner氏とトークをしながら楽器の説明をする羽目になってしまいました。

学生達の記者会見が白熱し、時間が押してしまったので、僕とFechner氏は途中退席し、オーケストラのゲネプロへと向かいました。ステージには、何十本ものマイクがスタンバイしてありました。このコンサートの模様は、ドイツのクラシック4というチャンネルで放送されます。そのため、まずはマイクチェックや打楽器の音量バランスのチェックです。ここで感心したのは・・・さすがドイツ人、妥協を許さないしつこさなのです。確かに、録音のためにはこのチェックが最も重要なのですが、たっぷり1時間以上はかけていました。日本でそんなことしたら、オケの連中がブーブー言うだろうな・・・(笑)。このオーケストラは放送局付きのオーケストラということもあって、このような録音の準備にはもう慣れているんでしょうね。ゲネプロ自体も細部に渡って練習していました。

大体、世界各国の放送局付きのオーケストラはウマイと言われていますが、こうした録音に際しての細部に渡るリハーサルをやっているからでしょう。弦楽器セクションなども、最後尾のプルトまで、一糸乱れぬアンサンブル。これって、プロでもなかなか大変なんですよ。しかも、プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」を目の前で(ホント2mくらい先で)完璧なアンサンブルで聴かされた時にはブッたまげました。万事がこういう状態なので、僕の曲の時ももうアンサンブルは完璧でした。ちょっとドイツなまりの節回しも微笑ましく聴けるのは、演奏の確かさから来るんだろうなぁ。なによりも、オーケストラが楽しそうに演奏しているので、僕の注文は何もない状態なんです。むしろ、コンサートでの僕のトークの方が心配。

さて、ゲネプロは続いていたのですが、地理に不案内な母親を迎えに行かなくてはいけないので、会場をいったん出ました。今日と明日の会場であるPrinzregententheater(なんて言いにくい名前だ!)は、ミュンヘンの中心から車で10分。威厳と風格のある劇場で、天井の装飾なんかも美術館のようでした。ホールの係りの人達も、もうここに勤めて50年って感じで、劇場と一体になってました。ホールの響きも劇場にしては良い方で、むしろ僕の曲は打楽器がウルサイから、響き過ぎるホールよりはこのようなホールの方が良いかもしれない。

ラッシュアワーの街なかを往復して、劇場に戻った時は、もう薄暗くなっていました。雨のせいもあるんでしょうが。これからのヨーロッパは夕暮れが早いのです。まさにコンサート・シーズンの開幕というわけです。開演の15分前には席について、観客の様子を眺めていました。普段僕は、初演の時でもあまりドキドキしたことはありません。むしろ、お客さんがどんな顔をして入ってくるのか、観察をするのが好きなんです。どんな曲かしらと楽しみにしていそうな顔や、ゲンダイオンガク?って顔しながら入ってくるお客さん。どの顔も僕は好きなんですよ。コンサート後には、みんな笑顔になって欲しいなと思いながら見てるんです。でも、今日はちょっと事情が違いました。ステージでのトークの事が気になる。Fechner氏は何を聞いてくるのかな? 一言二言だから、なんて言ってたけど、そんなことないだろう・・・。珍しく公演まえに緊張。

そんな中、ステージでは楽員が拍手で迎えられながら席につき、続いて指揮者のBufalini氏とFechner氏が登場。Fechner氏の巧みなお話(ドイツ語なので内容はわかりませんが、口調がDJのようでした!)があって、1曲目のWilliam Henry Fryの Niagara Symphonyが始まりました。2曲目は先述したプロコフィエフ、3曲目がRalphVaughan Williamsの Sinfonia antartica 第一楽章。そしていよいよ4曲目が「民舞組曲」です。今回は「民舞組曲」中から、第一曲目「囃子」、第三曲目「踊り」、そして第五曲目「土俗的舞曲」が演奏されます。

演奏に入る前にFechner氏から紹介を受け、ステージに上げられました。いやいや、久々に最高の緊張感。Fechner氏は僕をドイツ語でお客さんに紹介した後、僕に英語で打楽器の質問をしてきたのですが、少々舞い上がってしまってトンチンカンな英語を言ってしまいました。ん?なんだか会場がザワついてるぞ!?僕の英語のせいかな?余計な心配をしながらも、Fechner氏とのトークを進めて、無事客席に戻った時には、もうコンサートが終わった気分でした。でも、温かいミュンヘンのお客さんの笑顔に気を取り直し、さぁ、いよいよ演奏だ。

ドイツらしい、落ち着きがありながらも、燃える演奏で第一曲目が終わった途端、思わずお客さんの拍手が!本場ドイツでも、楽章の途中で拍手が起きるなんて!ちょっと嬉しい誤算でした。そして第三曲目・第五曲目が迫力ある演奏で終わった途端・・・おもいっきりの拍手で迎えられたのです。指揮者に促され客席から挨拶したのですが、どのお客さんの顔も、そしてオーケストラの楽員の顔も笑顔だったのが何よりも嬉しかった。嬉しさとホッとした気持ちで着席。その後のプログラムはゆっくりと聴けました。(ドイツの作曲家Zimmermannの作品とイギリスの作曲家Gregsonの作品。)

コンサート後は、レセプションがありました。欧米ではコンサート後に、よく後援者や関係者、そして当夜の指揮者やソリストを招いてレセプションをします。延々とドイツ語のスピーチを聞かされるのはキツかったのですが、コンサートの成功の余韻もあって、指揮者や楽員、オケのマネージャー、そしてFechner氏と楽しく語らった後、会場をあとにしました。  海外での公演ではいつも、どこの馬の骨とも分からない若い(?)作曲家の作品を、本当に快く受け入れ共感してくれる姿に、感謝の念でいっぱいになります。僕の純音楽の作品のスタイルは、「日本の民俗音楽の現代での有様」なのですが、それが日本でなかなか演奏されることがなく、こうして海外で演奏されることに、戸惑いと感謝がいつも同居するのです。レセプションの時に、あるご婦人から「今日の曲をいつも聴きたいからCDがあったら教えて」と言われた時には、月並みだけど、音楽に国境はないんだなとつくづく感じました。

ああ、今日もビールが美味いぞ!