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現代音楽からTV・映画の劇伴や舞台・イベントなどの作曲や編曲etc.

Column 2002年「ドイツ&ノルウェー旅日記」

9月25日(水)曇り

程よい緊張のせいか、7時前には目を覚まし、ちゃんと朝食。外はどんよりの曇り空。今日も寒そうだなぁ。

10時からのリハーサルだけど、日本から持ってきた拍子木やうちわ太鼓などを渡すため早めに出発。車で10分くらいの所に「Bavaria Studio」というオーケストラの専用の練習場があり、中に入るとすでにほとんどの楽員がスタンバイ状態でした。ドイツ人はやはりマジメなんだなぁ。僕の曲からリハーサルとだったのですが、一生懸命フレーズをさらっているドイツ人の後ろ姿にちょっと感動してしまいました。

今回のコンサートの企画・司会のWinfried Fechner氏が直ぐに僕を見つけてくれました。まずはご挨拶まわり。日本との連絡や今回のお世話をしてくれるConstanze-Isabell Buslさん、指揮者のMarcello Bufalini氏、日本人ヴァイオリン奏者の鈴木さん等など、次から次へと紹介してもらいましたが、僕の少ないメモリーではもうイッパイ状態。肝心の打楽器を携え、パーカッション奏者のところへ向かったのですが、うーん、もう名前が頭に入らない。でも、拍子木の打ち方やうちわ太鼓・馬子鈴の説明をしながらコミュニケーションを深めることができました。やはり音楽家同士は言葉よりもこの方が早いや。僕の曲にはこの他にも、びんざさらという楽器を使うのですが、それは既にこのオーケストラにありました。おお、びんざさらって世界的な楽器なのか!と思ってしまいましたよ。

一通りの説明を終え、早速リハーサルへ。指揮者の後ろに席を作ってもらいましたが、座るまもなく、インスペクターがドイツ語でなにやら話した後、僕にコメントしろと促します。もちろん、ドイツ語は出来ないのでヘタクソな英語でご挨拶をしてコンサートマスターと硬い握手。

さぁ、いよいよ音出しだ!このバイエルン放送響は、ドイツではベルリン・フィルに次ぐ世界的なオーケストラ。さすが、一発目から感動の鳥肌が立ってしまいました。今回演奏される「民舞組曲」は、僕の作品の中でも特に民俗色の強い作品なのですが、ドイツ人の演奏する日本の節がこれまたイイんだな。弦楽器や木管の歌い回しや打楽器のノリ、金管のパワフルさはもう言うこと無し!凄いです!

リハーサルが進むごとに、必ず指揮者が振り返り、僕に「これでいいか?」と尋ねてきます。もちろん悪いわけが無い。OKのジェスチャーをして答えるのですが、欧米では必ずどこでも、この様に作曲家をリスペクトしてくれます。それは彼らの、音楽と伝統に対しての畏敬の念の表れで、音楽に対して、いつでも真摯な気持ちで取り組んでいるからなのでしょう。

非常に細かなリハーサルをみっちり1時間以上やって、1セッションのリハーサルを終えました。終える前に、また「何かないか?」と尋ねられたので、ひとつだけ「囃子」の掛け声の仕方を説明しました。これはやはり、楽譜には書きこめない「伝統的なもの」のひとつですからね。1曲目の「囃子」には、パーカッション奏者が演奏しながら掛け声をかけるところがあるのですが、これがヨーロッパ音楽にはないテイストで、大変興味深かったらしく、楽しみながら叫んでいました。大柄なドイツ人が叫ぶんだから、なかなか迫力があります。オーケストラの中の打楽器というのは、比較的活躍の場がある作品が少ないので、僕の曲などはハリキリ甲斐があるのでしょう。見ていて僕も楽しくなってしまいました。

リハーサルの後も、Fechner氏と明日の打ち合わせ。今回氏がこの「民舞組曲」を選曲した経緯なども聞きました。数ヶ月前に、突然僕のところへ「民舞組曲の楽譜を貸してくれ」とメールが届いた時には、本当に驚いたのです。あのバイエルン放送響が演奏してくれるの?と思わずネットで公演プログラムを探してみたら、ありました。まだ楽譜も送ってないのに・・・(笑)。でもFechner氏は、この曲をCDで聴いた時いっぺんで好きになり、是非演奏したかったと熱く語ってくれました。作曲家にとって、これほど嬉しいことはありません。

作品は、作曲家がいくら作っても演奏されなければ、ただの楽譜です。作曲家の手を離れ、演奏されて、一人歩きをした時こそ、その作品は完成されるのだと僕は思います。遠くドイツでから「民舞組曲」を演奏したいとメールをもらった時に、僕はそれをまた確信しました。

熱い気持ちでBavaria Studioを後にした僕は、フェスティバルで賑わう街中を、不慣れなバスや地下鉄を乗り継いでホテルへと急ぎます。実は、今回の旅には母親が同行しているのです。本当はヨメさんを連れてきたかったのですが、仕事の調整がつかず取り止めになったのでした。まぁ、親孝行ということで声をかけた次第。母親を連れて街へ昼食と買い物に。一人旅もイイものですが、話し相手がいる旅もまた良いものです。しかも、母親との二人旅は初めて。これからチン道中になるだろうな・・・。早速、随分と買い物に付き合わされてしまいました。まぁ、これも親孝行ですね、トホホ・・・